明治時代に、木材パルプを主原料とする西洋の製紙技術が導入される以前には、日本の各地では手仕事にて数多い種類の紙が作られてきました。これらの紙は、書画や本、文書・記録のほか、障子や襖にも多く使われます。
さらには包み紙や傘などに用いられるなど、紙は身近な材料で、多くの人が紙の生産、流通に携わっていました。
この伝統的な紙は、今日では一般に「和紙」と呼ばれますが、保存性、柔軟性、安定性、耐久性、吸放湿性、再生産性など優れた長所が沢山あります。
これらの和紙の長所は、今から1300年前の奈良時代の経典や古文書がしっかりと強度を保って伝えられていることや、文化財修理に欠かすことができない材料となっていることに窺うことができます。
世界各地ではさまざまな紙が作られてきましたが、「和紙」の特徴は主に次の2つの点にあります。第1に楮、雁皮、三椏など、植物の靭皮繊維を原料とする点にあります。
この靱皮繊維は繊維長が長く、柔軟かつ強靱な性質をもちます。第2に繊維を分散させる役割をもつ粘液(ネリ)を原料に加え、流し漉きを行うことです。簀の上で繊維を流すことにより、繊維が分散して絡み合い、薄いけれども丈夫な紙を作ることができるのです。
現在では、和紙に文字を書く機会も極めて少なくなり、障子や襖がある家も少なくなってきました。
和紙の需要も大きく減少し、紙を漉く人々だけでなく、原料である楮、ネリの原料であるトロロアオイやノリウツギ、簀に用いる竹ひごや絹糸などを生産する人々に至るまで、各々人数が大きく減少し、近い将来に和紙を作ることができなくなる心配もでてきました。
先人が築き上げてきた和紙製作の洗練された技術を伝え、書画や古文書などの文化財修理を行うために、和紙の製作技術だけではなく、製作用具および原材料の生産技術の保護の緊急性が極めて高くなっています。
なお、古今和歌集(元永本)は、尾張徳川家、加賀前田家、三井高大氏の手を経て現在は東京国立博物館に所蔵されています。