姫様、今日は素晴らしいものをお目にかけますぞ。
なんと美しい!
この和歌集の名前はわかりますかな?
うわあ、こんなきれいな本が目の前にあるなんて信じられない。
とても触れないわ。
古今和歌集と書いてあるわね。
帝(天皇)がお作りあそばされた最初の和歌集よ。
たしか、そう、醍醐帝。
歌は仮名で、流れるようにかかれているわ。
加賀の前田家から拝借した本です。
筆跡もさることながら、
紙も美しいですな。
そうね、ここは大きな鳥、ああ孔雀ね、すごい迫力。
これはどうやって作っているのかしら。
この本は奥書によれば、元永3年(1130)というはるか昔に書き写されたもの。
その時代にどう作ったものやら、職人を呼んで、問うてみよう。
孔雀は、板木に雲母をつけて摺りだしたもので、唐紙と呼びます。
唐紙という名は、もとはこのような装飾された紙は宋の国から輸入されたものだからです。
ただし、この紙は、雁皮で作られた斐紙ですし、文様や金銀箔などの装飾からみて、日本で作られたものですね。
こっちは、色紙に金銀がちりばめられていて華やかだわ。
紙も緻密ですごく美しいわね。
雁皮は、楮に比べると繊維が短いので、緻密な紙になります。
しかしながら、雲母や金銀箔が凹凸を作っているので、この上に文字を書くのは、簡単ではありません。
本当に手間がかかった本なのだな。
しかし、何百年も昔から洗練された技術があったのだなあ。
しかも、時の経過を感じさせないほど、美しいものよのお。
紙は、水濡れや虫食いに気をつければ、とても長持ちするものです。
すごい材料だわ。
楮の紙は、普段よく使っているから、斐紙との違いはよくわかるわ。
楮にもいろいろな紙があるわね。
和歌を書く檀紙という紙は立派な紙だけど凸凹があって、墨がかすれるわね。
あの障子紙も楮の紙です。
あれは美濃国(現岐阜県)で作られた紙ですが、紙を漉くときに簀を縦にも横にも揺らすので、繊維の絡まりが良く、薄くてもとても丈夫な紙になるのです。
障子の紙って、おひさまの光を通してみると、とてもきれいよね。
楮の繊維もよくみえるわ。
でも、もとは木の繊維だとは思えないわ。
こんなに美しく、何百年も長持ちする紙となるなんて、紙は素晴らしい発明品ね!
冬に漉く紙が良い紙になります。
美しい紙をつくるためには、楮繊維のなかの傷んだ部分を丁寧にとったり、繊維を長い時間叩いて分離させたり、下準備に根気が必要ですが、良いものを作ることが職人の誇りです。
良い紙の生産には、良い原料や用具の生産もしっかり行わないとならぬな。
藩内でますます良い紙を作って、藩の特産にせねばな!