姫様!
こんなところで蹴 鞠などされてはいけません!
代々伝わる大切な襖にぶつかったらどうするんです!?
あら、タクミノスケ。
そんなに心配しなくても大丈夫よ。
全くあなたはいつもそうなんだから。
あぁ、
虎の顔に穴が···
なんてこと。
姫、
だから言ったではありませんか!
殿にまた叱られるのは
この私ですぞ。
なんだか騒がしいのぉ、
一体どうしたというのじゃ。
ややっ!タクミノスケ、
おぬしが付いていながらなんてことをしてくれたのじゃ!
と、殿!
いや、わたくしは止めるようにと言っておったのですが、姫が言う事を聞いてくれんのです。
どうかお許しを。
えぇーい、ごちゃごちゃうるさい!
すぐに修理に出せ!
はっ、承知致しました。
タクミノスケ殿、修理ができました。前の修理からしばらく時を経ており、下地の木の骨組みもゆがんでいました。
そこで、襖は解体して、下地も下張りの紙も全て新しい良い材料で作り直しました。絵の破れてなくなったところには補修用の紙を貼りましたし、絵具が落ちそうな箇所には、膠を使って接着力を回復させました。
いやいやちょっと待て、おぬし。
穴が空いた虎の顔は、ないままではないか!
なくなったところには、金箔をはって色を塗って目鼻を描かなければ、修理をしたかいがないではないか!
おぬし、もしや手を抜いたのではないだろうな!?
何をおっしゃいます、タクミノスケ殿。
絵がなくなってしまったところには、新しく色を塗ったり、顔を描いたりはしないものなのです。
かようなことをすれば、かえって元の絵の表現が台無しになってしまいます。
今回の修理では丁寧に絵具の剥落止めもしてあります。絵が描かれた時の姿を尊重した修理となっています。
そうじゃぞ、タクミノスケ。
おぬしもまだまだ勉強不足じゃな。